金の延べ棒で脱税のニュースがありました。
映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で知られる元受刑囚が資金を隠すために利用したスイスのプライベートバンク、ユ ニオン・バンケール・プリベ(UBP)が、米国人顧客の脱税ほう助での米当局による訴追を回避するため、1億8800万ドル(約 222億円)の支払いに応じることが分かった。
米司法省が6日公表した訴追免除合意によれば、UBPは米国人顧客2人が5000万ドル(現在の為替レートで約59億円)を上回る価値の金の延べ棒を持ち出し、米内国歳入庁 (IRS)に見つからないように資産を隠す手助けを行った。現在の価値で換算すると、持ち出された金の量は1トン余りに上る。
昔から金は世界共通の価値があるため、換金性も高く、足がつきにくいためいろいろな不正に利用されてきました。
今回は、”sham entities”と呼ばれるいわゆるペーパーカンパニー(実態のない会社)を通して金(ゴールド)と金(キャッシュ)をぐるぐるしてわからなくし、その出し入れを追うための書類も銀行が破棄したため、大きなペナルティーを課せられました。
なぜ、スイスの銀行が米国のペナルティーを受けるのかというのを不思議に思われる方もいらっしゃると思いますが、FCPAという強力な規制で米国は不正な支払いを国外含めて罰しているのです。国際的な取引をする銀行等の金融業界はFCPAの規制を常に意識して海外送金等を行っています。とはいえ、主権の問題があるので米国人や米国にいる方(法人)が関係したものに限られます。今回の件も米国人顧客に関連したものです。
世界でプール一杯分しかないといわれる金を1トン分も持ち出して資産隠し。
本日の相場で1gの金は4,506円ですから、1トン45億円分の金を持ち出したということですね。
税務に関する貴金属(ゴールドなど)の特徴
資産隠しに利用される
数十年の昔は資産家の家の金庫に金の延べ棒が潜んでいることが多かった。タンス預金より金の延べ棒のほうがいいですね。
1979年は1g1500円くらいだった金が今では5000円近くです。2000年が1g 1100円くらいですので、そこからの上がり方がすごいです。換金性(流動性)は問題ないとしても、相場が変動するので価値変動のリスクはありますね。ただし、それは貨幣の価値もインフレ率等で変動しますから同じですが。
さて、このような特徴を持つ金ですから、富を金に代えて隠したり、持ち運んだりするのに利用されやすいのは容易にわかっていただけると思います。
長野地検が7億円余りを脱税したとして相続税法違反容疑で逮捕した同県岡谷市の会社社長、山岡忠典容疑者(61)の自宅にある土蔵の床下から、金の延べ棒210本(時価約5億6300万円)と現金約6億7千万円が見つかっていたことが3日分かった。
現在だと金の延べ棒一本500万円くらいですから、10億を超える金を床下に隠しておいたことになります。
将来の値上がり期待で保有するのが通常ですが、一部の人は相続や贈与の脱税方法として、銀行預金のように資産の動きが把握されないように、様々な思惑で保有されます。
1993年(平成5年)3月6日、金丸は脱税容疑で逮捕された。まさに「踏んだり蹴ったり」であった。ゼネコンからのヤミ献金を割引債に換えて蓄財してい たとする容疑で東京の金丸邸の金庫から30億円の割引債や金の延べ棒などが押収された。取り調べでは脱税容疑を強く否定したが、東京地検は金丸を起訴し た。
受け取った金の延べ棒を申告せず隠していたので当時の副総裁が所得税法違反の容疑で逮捕されました。時代劇の悪代官と越後屋の定番「おぬしも悪よのう~」の饅頭(小判)の世界です。
密輸や益税に利用される
昔は小判が貨幣でした。黄金の国ジパングと呼ばれ、金が豊富だった日本も、銀の価格差を利用して大量に銀と交換され海外に流出したりもしました。
「金・銀 = 貨幣」の時代もあったのです。
現在は金本位制は終わっていますので、金(ゴールド)はお金と一緒という状況は公的には無くなりました。ただし、個人のレベルでは金(ゴールド)はある程度お金そのものに近い印象を持っている方も多いのではないでしょうか。
消費税はお金にはかかりません。お金を貸し借りした時にかからないのと一緒です。あくまで”消費”に対して課税される。土地についても”消費”されるものではない(使っても減っていかない)ので消費税はかかりません。
しかし、理由はわかりませんが(政策的なもの?)、なぜか金(ゴールド)には消費税がかかります。金に消費税がかかる国は沢山あるのですが、かからない国もある。例えば、香港は消費税がない。アメリカは一定量までは金にかかる売上税は免除されるので無税で買える。また、金の相場は全世界共通ではなく、国によって若干価格が違っていたりする。
そのため、安く仕入れて高い国で売るという転売行為や、資産の海外移転のための輸出入、消費税のかからない国で仕入れて消費税のかかる国で売ることで消費税分儲ける(益税)ようなことがされたりします。
関西国際空港で金の延べ板64枚(約3億円相当)を密輸しようとしたとして、大阪地検特捜部は7日、大阪府箕面市の化粧品販売業、高橋幸一郎(65)と息 子で従業員の勇一郎(38)の両容疑者を、関税法違反(無許可輸入未遂)の疑いで逮捕した。特捜部は、密輸した金を国内で売って、消費税分の約1500万 円を不正に得ようとしたとみている。
逮捕容疑は今年5月26日、韓国から関空に帰国した際、手提げ袋に化粧品を装って金の延べ板64枚(1枚約1キロ)を隠し持ち、密輸しようとしたとしている。
(2013/11/7 毎日新聞)
64キロも手提げ袋に入れて持っていたんですね。。。力持ち。
税務的な話をすると、業として金を輸入する場合は免税点である税額1万円以下の「少額輸入貨物」に該当しない場合は消費税を日本国内に持ち込む際に納める必要があります。
”業”としてやっておらず、個人的に業としてではなく持ち込む場合は原則的には消費税はかからないです。
ただし、税関としては1キロを超える金の延べ棒を持って帰ってきたときは基本的には”業”と判断するようで、消費税を課す方向のようです。税関HPによると「詳しくは職員に聞いてください」と案内があるので、そこで転売目的等の”業”ではないと認められれば消費税がかからないのかもしれません(参考 税関HP 7305番)。
韓国からのフェリーで金の延べ板約20キロを密輸し、外国貨物を輸入する際に支払う消費税を脱税しようとしたとして、門司税関下関税関支署(山口県下関市)は9日、高松市のトラック運転手山下敬也(たかや)容疑者(52)を関税法違反(無許可輸入の未遂)と消費税法違反などの疑いで山口地検下関支部に告発し、発表した。金の密輸の摘発例で、船を使うケースは珍しいという。
中略 ~ 活魚を下ろして帰国する際、重さ約1キロの金の延べ板約20個を運転台と活魚水槽の間に隠し、密輸しようとした疑いがある。
帰りに小遣い稼ぎに密輸したものと思われます。自身でやられたのか、運び屋かは不明ですが。
2016/1/14 追記
化粧品と偽り、香港から関西国際空港に計10億円相当の金塊や高級腕時計を密輸するなどし、男女計10人が関税法違反(無許可輸入未遂)と消費税法違反(脱税未遂)などの容疑で逮捕された事件で、大阪税関関西空港税関支署は14日、押収品を報道陣に公開した。
金塊は、1キロの金の延べ板130枚、計130キロ(約6億300万円相当)で、関西国際空港での金の押収量としては平成6年の開港以来最多という。
中略
来年4月には消費税が10%に引き上げられることが決定的で、税関関係者は「さらに密輸が活発化することが懸念される。水際阻止が欠かせない」と警戒を強めている。
10億円相当とは・・・
金の密輸の手口としては以下のようなものがあるようです。
- 大量のポケットがあるベストに忍ばせる
- ノートパソコンのバッテリー差込口に入れる
- シリコン製のパッドで妊婦の腹部を装う
- 体内に詰めたりする
- 下着に隠す
- 金のハンガーを作り衣服と一緒に持ち込む
- 砂糖等の食品に偽装
- 缶等の底を2重にして隠して持ち込む
- スーツケースの内貼りの下に隠す
- キャリーバックの取っ手に仕込む
人類の有史以来、金は価値を持ち続けているので、金への信仰がなくならない限りこのようなことは無くならないのではないかと感じます。
ちなみに、以前は香港の金が世界的に安かったので、香港旅行の帰りにちょっとしたお土産として金を買う方も多かったと思いますが、現在は日本国内の金は安い水準になっています。
金を売った時の儲けは所得税がかかる
金(ゴールド)を円に換金したときに、仕入れ値と比べて利益が出る場合には所得税で申告が必要です。ここは通常のモノの売買と一緒ですので違和感はないでしょう。
(おまけ)実は相続税がかからない金(ゴールド)があった
通常、金は財産ですから相続の際には税金がかかります。ただし、文化的なことを考慮してか、仏壇などは相続税の対象外ですから無税で引き継げます。金をどっさり使った高価な仏壇が一部の人に需要があったりもします。1000万もする純金製のチーンとする「おりん」があったりもします。家に人を気軽に呼べませんね。加工賃もかなり上乗せされるので、素直に相続税を払った方がお金を残せる場合も多いでしょう。
以上、いかがでしたでしょうか。ちょっとした税の違いを利用して世の中では様々なことが行われていることを感じていただけましたでしょうか。
本記事は、読み物として記載しています。悪用されないようくれぐれもお願いします。
著者紹介(Author Profile)

- イーグル会計事務所
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本当はシステム開発が天職だと思っている公認会計士です。プログラムは何時間でも書き続けられます。個人的には金融、IT系、製造業系の会社が強いです。事務所としては数では飲食店のお客様が結構多いです。お客様の飲食店に伺うことも多いので太らないようにしていますが、その甲斐も虚しく最近太ってきています。
【キャリア】システムエンジニア→大手監査法人→メガバンクで銀行員→上場企業で最高財務責任者(CFO)→(ここから独立)イーグル会計事務所立ち上げ→税理士法人イーグル立上げ→イーグル会計事務所に戻る
【所有資格】公認会計士、税理士、中小企業診断士、第一種情報処理技術者、証券アナリスト、不動産証券化マスター等
【趣味】 温泉、洋楽、単車、漫画など
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