東芝の監査含め問題があるとして新日本監査法人に金融庁が本日処分を下すという報道が出ています。

改めて、監査法人というものを考えてみる良い機会でしょう。

監査法人は公認会計士の法人化した集まりを言うので、役割としてはほぼ公認会計士と同じです。

日本では”法人”として会社と同じように扱われていますが、海外だとLLPという”組合”形態が多いです。

(法人と組合の違いを確認したいときはこちらの記事を参照ください)

最近は日本でも「有限責任監査法人」という新たな形態が認められるようになり、通常の監査法人から有限責任監査法人へ移行するところも多いです。有限責任監査法人でも通常の監査法人でもクライアントの会社からみると責任が違うだけで同じです。

 

資本市場の基本の確認

株式会社という仕組みは、経営者と所有者(投資家)を分離することで、永続的な事業と大きな事業展開を可能にしました。一部では、人類最大の発明の一つといわれる仕組みです。

経営者と所有者が分離されたため、所有者はお金を出し、経営者は経営した結果を所有者に報告する。

結果の報告として、会計帳簿の技術が発達し広まりました。

しかし、経営者も人間ですからウソの報告をしたりします。ウソが満ち溢れるとそもそもの株式会社の仕組みである経営を得意な人(経営者)に任せるということが成り立たず、崩壊します。

そこで”資本市場の番人”としての役割を持つのが公認会計士です。

経営者が出した報告が正しいか判断して所有者に報告する。所有者は正しい情報をもとに、経営者の能力を判断する。これで、株式会社の仕組みがうまく行きます。

能力ある人(経営者)にお金が運用されて経済が好循環し、国民がその恩恵を受ける。

 

公認会計士(≒監査法人)の使命の確認

公認会計士の使命は、公認会計士法第1条に記載があります。

公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。

重要なところをわかりやすく言うと、専門家としての能力、独立した立場、投資家の保護というところでしょうか

資本市場の基本のところで説明しましたが、公認会計士は資本市場の登場人物のうち、3番目に重要な位置を占めています。1番は投資家、2番は経営者、3番は公認会計士になります。

 

新日本監査法人の東芝のケース

監査法人の監督官庁である金融庁の審議会「公認会計士・監査審査会」。実質的に公認会計士及び監査法人を監督する機関が検査結果と勧告を出しました。

当監査法人を検査した結果、以下のとおり、当監査法人の運営は、著しく不当なものと
認められる。
以下略

監督官庁から”著しく不当”扱いされましたが、理由を読むと以下のようにまとめられます。

  • 体制、進め方に不備があることは以前から指摘してきたのに一向に良くならない(PDCAが機能していない)
  • 品質管理及び責任者の査閲(チェック)体制に問題がある
  • 社員(一般の会社での取締役に相当)の能力不足

私も公認会計士ですが、同じ専門家として残念で脱力です。公認会計士・監査審査会としても再三してきたので金融庁としては悪くないというアピールが少し見え隠れする文章なので3割引くらいで読む必要がありそうですが、それにしてもひどい。

今回の東芝監査の不祥事は「専門家としての能力不足」というところに落ち着きそうです。

公認会計士の使命のところで取り上げましたが、「専門家としての能力、独立した立場、投資家の保護」という要素のうち、専門家としての能力はあったが、独立した立場ができていなかった事例が、カネボウ事件を発端に結局解散した中央青山監査法人とエンロンという大問題を起こしたアーサーアンダーセンというところがあります。

中央青山監査法人は当時金融庁と最も強いパイプを持ち、トップの監査法人でした。

しかし、カネボウ経営陣との癒着が判明し、カネボウの2000億円超の粉飾が発覚し、金融庁の業務停止処分を受けました。金額的には今回の東芝のほうが大きくなりそうです。

中央青山監査法人のケースは、能力的には会計不正の”飛ばし”の仕組みを一緒に考えるくらいだったので問題なかったが、独立性(経営陣との癒着)が問題で悪質性が高いと業務停止。

日本は、能力が足りないのは許容される風土があると思いますので、今回はそんなに重い処分ではないでしょう。ウルトラCで独立性に問題があったという事案が出たら別ですが。

新日本も、能力が足りませんでしたすいませんでした。という方向で軽い処分になったほうが良いでしょう。

  • 金融庁からの課徴金と処分
  • 株主からの代表訴訟

商売の根本である”監査”に及第点を付けられた新日本はお客さまの会社の信頼を失いました。

どのような処分であれ、険しい道が待っていそうです。

結局はきちんと使命を果たすことが信頼につながり、商売繁盛するということなのでしょう。

 

2015/12/23 追記

処分の内容が出ました。

東芝の会計不祥事を巡り、金融庁は22日、会計監査を担当した新日本監査法人に3カ月の新規業務の停止を命じる行政処分を正式発表した。監査法人に対し初となる約21億円の課徴金も科す。金融庁は「相当の注意を怠り、長期間にわたり批判的な観点から検証ができなかった」と認定。東芝を直接担当した公認会計士7人に、1~6カ月の業務停止命令を出した(2015/12/23 日経)

中央青山監査法人に比べると1/100くらいの軽い処分です。サインをする責任者の会計士以外にも処分を課したのが意外でした。管理職の公認会計士は今後、サインをしていなかったとしても責任を問われる可能性を認識し、積極的に間違いのない監査をしていくインセンティブが生じる、良い処分でしょう。課徴金は中央青山監査法人への処分の後にできたため、初の処分内容。21億円は多額に感じますが、2014年に新日本監査法人グループが東芝から受け取っていた報酬は29億円なので1年分というところでしょうか。