巷では7-9月のGDPはマイナスの予想がされています。2四半期連続のマイナスは世界の定義ではリセッション(景気後退)入りといわれ、日本もいよいよ景気後退局面に突入するかもしれません。

景気が後退すると気を付けなければいけないのが貸倒れです。

 


 

月初のある日

自動引き落としの入金チェックをしていると、普段は入っているはずの、いつもの取引先の入金がない

あれ?この引き落としは支払いとしては少額な部類に入ると思うが。。。

入金がないので連絡

先方取引先「あっ、すいません。残高の計算間違って引き落とせなかったみたいです。翌月にまとめて2か月分とか良いでしょうか?」

当社「申し訳ないですが、そのような対応はしていません。期限の過ぎた支払い分は早く対応お願いできますでしょうか?」

先方取引先「少額なので面倒だなぁ~・・・ブツブツ。わかりました。すぐに振り込みます」

 

2週間後・・・

 

一向に連絡が付かない・・・

事務所に向かうと張り紙 「○○ 譲渡担保目的物件」

 

ー 了 -


 

 

会社運営していると代金回収事故は必ずおきます。どんなに注意していてもです。

ただし、きちんと管理している会社は5年に1回しか起きないことが、管理がずさんな会社は毎月起きたりします。

 

通常は資金繰りに頭を悩ませると、まず大口の支払いをなんとか遅らせるように調整します。

それでも、お金が回らなくなった時に少額債権の支払いを調整するので、少額債権の支払い日の変更等のお願いがきた場合には超要注意です。

経理の方は、振込が面倒ですが、ついつい「来月にまとめてで良いでしょうか?」というようなことを言わないように気を付けましょう。あやしまれます。

 

本件のように支払われず夜逃げされてしまった。連絡もつかない。

普通の経営者の感覚では「うわー!悔しい。損した。金払え!」という気分でしょう。

しかし、その後・・・もう一度最悪な気分を税金で味わうことになるとは・・・

 

恐怖。夜逃げされたのに税金では損にできなかった!

税金の世界では貸しを踏み倒された場合に、それを損と認めてもらうには厳しいルールをクリアしなければなりません。

これは、貸し借りの損とか利益を簡単に認めると、利益や損失の付け替えが簡単にできてしまうという恣意性が高いという理由です。以前、悪い人たちが沢山そういう手法を利用していたのでしょう。性悪説ですね。

夜逃げされただけでは、税務上の損にならないのです。

いま、さらっと税務上の損にならないと言いましたが、これがどういうことか。

夜逃げ事例を数値で確認

100万円を夜逃げで回収できなかったと仮定します。

  1. 「今月も無事先方の仕事を完了できた。 売上 100万円」
  2. 「入金日になっても100万円入ってこない。」
  3. 「事務所に行って夜逃げの事実を確認」
  4. 「年度決算で確定申告」

3.で夜逃げで100万損したと意気消沈しました。そして4.で待っているのは税金の損にならないため、回収できなかった売上に対応する税金35万円を税務署に払わされる。

なんと、夜逃げが起きた時には100万円回収できず損したのにプラスして35万円税金を徴収される。まさに泣きっ面に蜂。傷口に塩。踏んだり蹴ったり。

 

そのようなことにならないように、税務上の代金回収不能時のルールを理解しておきましょう。

 

税務上の代金回収不能(貸倒)とは

売掛金や貸付金の相手先が支払い不能になり、回収できない状況になっているのは当然として、それにプラスして以下のどれかの状況を満たしている場合です。

  1. (法律上の貸倒れ)会社更生法や特別清算・債権者集会での決定・書面による債務免除等法的に債権が消滅した場合
  2. (事実上の貸倒れ)実質的に債権の全額が回収できないことが明らかになった時
  3. (形式上の貸倒れ)売掛債権が取引停止後1年以上回収できないときや、回収のコストが債権金額より大きい時

 

法律上の貸倒れ

  1. 更生計画認可の決定または再生計画認可の決定により、切り捨てられることとなった部分の金額
  2. 特別清算の協定の認可により切り捨てられることとなった部分の金額
  3. 債権者、行政機関、金融機関その他の関係者の合理的な基準による協議決定により切り捨てられることとなった部分の金額
  4. 債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合に、債務者に対し、書面により明らかにされた債務免除額(法基通9-6-1)

厳しい。4.は債務超過の事実に加えて、債務者の資産状態、経営状態、その他の状況を総合的に判断するとされています。総合的にといわれると、客観的な判断が難しい。そして、お約束の「回収が可能な場合には、債務免除が行われたとしても、その免除相当額の無償供与をしたものとして、寄附金に該当することになる」となります。気を付けましょう。

 

事実上の貸倒れ

法律的には債権が消滅していない場合でも、債務者の資産状況、支払能力などからみて、債権の全額の回収ができないことが明らかとなったときは、その事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。

「全額」ということがポイントでしょうか。少し回収できたり、担保があったりしたら基本的に損にできません(例外はあります)。

しかし、この規定は簡単ではないのです。「回収の努力を続けていたが、回収できない状態に至った」という証拠が必要なのです。これも客観的な判断が難しい。回収努力として、電話や面談記録、郵送物の控えと送付履歴を残し、回収できない状態として、決算書の入手、他の取引先や銀行へのヒヤリング、会社登記簿、土地などの資産の把握、支払い能力の調査報告書などを用意します。それを総合的に判断して条件を満たしているか判断します。個々のケースごとに違うので顧問税理士に確認するようにしましょう。

 

形式上の貸倒れ

債務者について、次のような事実が発生した場合、その債務者に有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権は含まない)について、法人がその売掛債権の額から、備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、損金算入が認められる。
  1. 債務者との取引を停止したとき(最後の弁済期または最後の弁済のときが停止したとき以後の場合は、これらのうち最も遅いとき)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物がある場合を除く)
  2. 法人が同一地域の債務者について有する売掛債権の総額が、その取り立てのために要する費用に満たない場合、その債務者に対して支払いを督促したにもかかわらず弁済がないとき(法基通9-6-3)
1.については継続的な取引に限られるので不動産などのワンショット(一回限り)の取引をした場合には適用されません。会社で生じた貸倒は通常このケースでしょうか。

 

以上のように、夜逃げのケースだと通常は、形式上の貸倒れの適用で1年間待つか、事実上の貸倒れとしていろいろ努力して資料を集めるかしないと税務上の損失とは認められません。注意が必要です。

 

夜逃げ