LIXILが中国企業の買収で大損したのはご存知でしょうか。
2015年11月13日に”社内”報告書が提出され、概要についてリリースがありました。
Joyou の会計不正についてもっとも批難されるべきは、Joyou グループ の創業者である Cai 親子であるという結論が下されました。また、当社の調査により Joyou の不正会計が 2008 年にまで遡るという事実が確認されました。具体的には、Joyou の財務書類が偽造されていたことが調査により明らかにされ、更に、Joyou の監査役会に承認されていない融資が存在していました。これらの融 資は Joyou の帳簿上記載されていませんでした。これには、Cai Jilin 氏によって Joyou の中国子会社の資産を担保にした極めて金利の高い個人のローンが含まれていました。さらに Cai 親子は、税金の支払を最少化するために、税務申告書において虚偽の収入金額を申告していました。
“社内”報告書だけあって、騙されたということを強調している内容になっています。
本件は、2014年に買収したドイツの水栓金具大手グローエがあるのですが、当該会社がドイツのフランクフルト証券取引所上場のJoyouを保有していたため、LixilもJoyouの株を子会社を通じて保有することになりました。Joyou株の損失で250億円、その他の債務保証等で最大400億円程度の損失が発生する可能性がある事案です。
いや~、怖いですね。。。会社を買ったら600億円を超える損失の可能性が発生ですから。
各社関係の確認
Lixil(日本の会社)
↓ (株を保有。子会社)
グローエ (ドイツの会社)
↓ (株を保有。子会社)
Joyou (中国の会社)
2つの側面から見る反省点
- 買収前の調査不足(デューデリジェンス)
- 買収後のわきの甘さ
買収前の調査不足(デューデリジェンス)
会社を買う前に、ビジネスや財務について調査することをデューデリジェンスと言います。
オーナー企業だと、買収を決める際に「えいやっ!」と決めてしまうこともありますが、通常はきちんと調査したうえで購入します。調査するのは当たり前ですね。
今回はきちんと調査していれば買収資金の株に充てられた250億円は損することは無かったかもしれない。
一般に、中国企業は調査の限界があります。そうはいっても、本件は大がかりな不正でしたので、調査すれば端緒が見えた可能性は低くないでしょう。
今回の中国企業は、2008年から不正をしており、財務書類は偽造、簿外の借入が多額にあった。Lixilが買ってすぐ倒産ですからしびれる展開です。
実は、Lixilの他にも記憶に新しい事件として、江守ホールディングスの案件があります。
江守は3月、中国子会社の経営トップだった元総経理が、親族が経営する会社と取引を行っていたと発表。元総経理が内部規則に違反し、江守の承諾を得ずに親族の会社と取引を行い、最終的な販売先が仕入れ先と同一の「売り戻し取引」が見つかったという。本来は手数料収入だけとするはずの利益を商品売買の売り上げがあったように計上していた。
本件の損失は480億円です。。。親族への売掛金のほとんどが焦げ付きました。結局、その影響で日本の会社も倒産しました。
中国の企業を買おうとしている方、中国に子会社をお持ちの方は、必ず十分なチェックしましょう。お金がかかったとしても必要コストです。会計の世界の常識として中国の会計はどんぶり勘定で適当です。会計基準も建前としては国際会計基準を採用していますが、しっかりはしていません。出された数字は疑いましょう。
買収後のわきの甘さ
株式会社は有限責任です。責任は出資の範囲に限定されます。
今回も買収後に変なことしなければ買収資金の250億円の損ですんだのですが、買収後のわきの甘さで傷口を広げました。債務保証をしたのです。。。
海外ではいろいろな詐欺手法に直面します。「出会って間もない時にお金の要求がある場合は詐欺を疑う」ということは当然です。日本の感覚とは少し違うでしょうか。日本は平和です。
通常、上場企業が借り入れを行う際には経営者や親会社に債務保証をしてもらうことはありません。中国のJoyouは上場会社です。
債務保証して傷口を広げたのは何らかの特殊事情を感じます。
買収したばかりで実態のわからない海外子会社の債務保証は安易にしない。
平常時には当たり前と思いますが、当事者として意思決定する際には近視眼的になるってしまう可能性もありますから、注意していきましょう。
以上、いかがでしたでしょうか。
中国企業への十分な調査をしないと恐ろしいほどの手痛いしっぺ返しがくる可能性があることを実感できましたでしょうか。とはいえ、大きなマーケットですからこれからも続々と日系企業が進出していくでしょう。本件を反面教師に、このような損失が出ないようにしていただきたいです。
なお、今回のLixilの件は、”社内”調査委員会とした点、社外の第三者委員会で客観的に探って調査してほしくない理由があるのかもしれません。中国で商売するには一筋縄ではいかないということでしょう。