創立者の長女で元学園長を務めていた方が、学校法人のお金を自由な感じで使っていたことが発覚した文理佐藤学園。
税務でのお決まりのパターンの報道がされました。
国税局は、業務とは認められない旅費や高級ホテルの宿泊費、佐藤元学園長が学園名義のクレジットカードで支払ったアクセサリーの購入代など、総額およそ 7500万円を「私的な支出で実質的な給与にあたる」と判断し、学園側に所得税の源泉徴収漏れを指摘しました。追徴税額は重加算税を含め2560万円で、 学園は「全額、元学園長に負担してもらう」とコメントしています(2015/12/25 TBSニュース)
今回は改めて、会社に横領や私的流用が起きた場合の税務について網羅的に理解して頂きたいと思います。
私的流用された経費には課税される
会社にわからないように緻密に計画された横領や私的流用以外は、基本的に横領又は私的流用した方への給与や賞与とされます(認定される)。
これはなかなか厳しく判断され、裁判になることもあります。まあ、通常納税者側が負けますが。。。
損害賠償で取り返せるのであれば、給与等の課税は避けられることもありますが、今回は5600万円の私的流用のうち、学校側に返済された額は1500万円程度で4130万円はまだ損害は回復されていない。
今回の報道はこのパターン。
しかし、元学園長はそんなに資産がないのでしょう。学校側へ請求しました。
源泉徴収をするのは会社の義務
給与を払うときは源泉徴収をされます。源泉徴収は所得税の取り漏れ防止などのための制度。納税者ではなく、金銭を支払う側に納税の義務を負わせるものです。
学校法人側は、私的流用されたあげく、国税に追徴課税をある意味元学園長への立替のような形で納税を迫られ、元学園長へ不良債権化する可能性の高い債権を抱えることになる。
まさに泣きっ面に蜂。しかし、この教訓は会社経営者としてリスクを認識しておきましょう。
横領や私的流用が発覚した際に取られる国税の対応パターン
報道の学校法人の内容はさておき、お金のあるところから何とか納税してもらおうと国税の対応には比較的バリュエーションがあります。確認していきましょう。
給与課税で横領や私的流用した本人に追徴パターン
本人に給与と認定された分に対応する所得税等を追徴課税するオーソドックスなパターンです。給与と同視できるかという点がポイントです。また、何らかの理由により会社側が気づきながらも黙認していた場合もこのケースになります。延滞税+重加算税が課される可能性があります。
給与課税で横領や私的流用した本人に追徴に加えて会社側に源泉徴収を追徴課税するパターン
私的流用して豪勢にお金を使っていた場合は、本人に資力がない場合があります。源泉徴収分は本人が確定申告すればその分取り戻せるのが原則なので、本人に資力があれば、国税に取って損得はないのですが、本人が払えないときは、源泉徴収の責任は会社にあることを盾に会社側に請求できるのです!文理佐藤の件はこのケースです。延滞税+重加算税が課される可能性があります。
会社は損害賠償を請求し、その分を益金(税務上の利益)として、対応する税額を納税するパターン
結構ある普通のパターン。過去の流用された額は費用として計上されて処理されているので、損害賠償としてその分を利益として対応する税を納めて終わり。
このパターンは取り戻せれば費用と利益が合うので会社へのダメージはあまりありませんが、取り返せないとタイミング的に会社の資金を圧迫する可能性があります。
損害賠償請求時に益金として納税し、損害が取り戻せないことが確定した時に債権の貸倒れとして損失計上するためです。
架空請求は損金(税務上の費用)としては認めない
辛い。これは辛い。
東芝グループの照明メーカー「東芝ライテック」(神奈川県横須賀市)の技術部門に所属していた元グループ長の女性(57)が10年以上にわたり、10億円以上の架空発注を繰り返し、約7億円を着服していた疑いがあることがわかった。
東京国税局の税務調査で判明したもので、架空発注は経費として認められないなどとして、同社は2011年3月期までの7年間で、約3200万円の所得隠しを含む約9億6000万円の申告漏れを指摘された。
会社は既に横領で10億円以上の損害を受けている。
そこからさらに、7年分の9億6000万円に対応する税金を請求される。
横領した人に資力がなく取り戻せない場合には、会社は10億円の損害で辛い目にあっているのに、傷口に塩を塗るように10億円に対応する税金約4億が追加され約14億円の損害に増える。
なお、東芝ライテックの件は、たまたま繰越欠損金があったので実際の納税額は2800万円でした。
このケースも延滞税と重加算税が課される可能性があります。
発覚し報道されている横領や私的流用は氷山の一角
報道されている横領は氷山の一角です。
横領が発覚すると、(1) 取引先等への信用が大幅に低下、(2) 従業員の士気が低下、(3)税務上の様々な課題が生じるため、基本的にはオープンにせず、会社と本人の当事者同士が落としどころを探る。
横領をさせた会社も甘いところがあったのは事実でしょう。大人の対応が必要です。
税務調査で横領が発見されるのは悪いパターン。社内で早期に発見されるような仕組みで経営する
報道されるパターンとしては税務調査で発見されるケースが多い。それはごく一部の一流の知能犯によるものではない限り会社の経営うまく行われていなかったことにほかなりません。
従業員に不正を起こさせてしまう会社風土、不正を許す業務手順。経営者の責任は大きいです。横領した従業員も人間ですから、どんな人でも魔がさすことはあり得ます。
横領に代表されるような不正が起こることを防止し、起こった場合でも早期に発見する仕組み(専門的にはこれを内部統制と呼びます)を実施する。
内部統制の専門家は公認会計士なので、もしアドバイスが必要であれば公認会計士に聞けばアッという間に解決してくれるでしょう。
もし、税務調査で多額の横領が発見された場合は「まな板の上の鯉」状態です。税理士と相談しながら国税の処分を少しでも軽いものになるようアピールしましょう。それくらいしかできないいのです。
ぜひ、そういうのと無縁の会社運営を目指してください。