本日は画期的なニュースがありました。

所得税の申告で競馬の外れ馬券代を経費に算入できるかが争われた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は21日、北海道の男性について「馬券購入には経済活動の実態がある」と判断、経費と認めなかった一審東京地裁判決を取り消し、男性側逆転勝訴を言い渡した。

国税庁は、経費算入を認める要件として、馬券自動購入ソフトの使用を挙げているが、男性は使っていなかった。ソフトを使わないケースで経費算入を認めた判決は初とみられる。(以下略)

(共同通信2016/4/21)

当然という感覚と、画期的という様々な評価がなされそうな判決です。高裁なので、まだ最高裁が残っています。

ギャンブルなどに関する税務

まずは競馬を含むギャンブルに関する税務の確認です。

税務上は、これまではギャンブルで勝ったり当たった場合には「一時所得」という区分に所得が振り分けられました。

一時所得は、直接要した費用しか経費として認められない。直接とは、その当たった賭けに直接かけたお金のこと。

例えば、100万円ずつ10レースの馬券を買って、5倍で1レース勝って500万を手にしたとします。その場合、一般人の感覚だと500万円の収入と1000万円の支出で結局500万円損したと考えますが、税務上は当たり馬券500万円の収入と100万円の支出で400万円の利益と考えます。あとの900万円のはずれ馬券は関係ないと考える。そしてその400万円の利益に対して所得税を課す。

この制度は5年前まで鉄壁でした。

しかし、普通の会社員が競馬を科学して大幅に儲けたのに莫大な税金を課して裁判になった件で制度が崩れました。

馬券の購入を事業レベルでやっていた方の巨額課税事件解説

大阪在住の男性会社員(A氏)が独自の競馬分析をして100万円を元手に自動購入ソフトを理称して2007~2009年の3年間に計約28億7000万円分の馬券を購入した結果、30億1000万円の当たりを勝ち取り、1億4000万円の利益を得た。

男性はこれを一般人の常識で馬券購入費28億7000万円を費用として申告。国税の考え方は上段で説明したように「直接要した費用のみ」なので29億の利益に対する5億7000万円の追徴処分。

副業(?)が大成功して1億2000万円儲かったと思ったら5億7000万円の税金払えと迫ってくる本当にすごい事態です。A氏はこの問題で会社員としていられなくなり勤めていた会社も辞め、弁護士費用を残して納税をするも、残った納税に払える額は6000万円弱。5億7000万円も払えるわけなく、延滞税等でどんどん膨らみその額は10億超に・・・自己破産しても税金の未払いは残る。八方ふさがりでまさに死ぬか生きるか。生きるなら・・・裁判しかない!

ということで裁判になりました。生きる選択をしてくれて良かったです。

さすがにやりすぎたのでしょう。最高裁まで争われて、国税敗訴が確定しました。1億2000万円の利益に対する税金だけでOKでした。

しかし、国税はここで速やかに対応をします。

法律ではないので拘束力はないですが、通達を以下のように変えました。

国税通達 34-1

次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。(昭49直所2-23、昭55直所3-19、直法6-8、平11課所4-1、平17課個2-23、課資3-5、課法8-6、課審4-113、平18課個2-18、課資3-10、課審4-114、平23課個2-33、課法9-9、課審4-46、平27課個2-8、課審5-9改正)
(1) 懸賞の賞金品、福引の当選金品等(業務に関して受けるものを除く。)
(2) 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。
(注)   1 馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。
2 上記(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する。

つまり、このA氏の事例以外は一時所得としてはずれ馬券の購入費は費用として認めませんよという内容。自動的に購入するソフトウェアを利用して、インターネットを介して、的中に着目せず網羅的に、多額の利益を恒常的にあげている場合だけ費用として認めますよと。ここでがっかりされた方は多いでしょう。

今回の高裁判決が画期的なところ

前回の最高裁敗訴で国税は通達を変えて、今後も税金をとる気満々の姿勢を出しました。

今回の高裁判決で通達にある「自動的に購入するソフトウェアを利用して、インターネットを介して、的中に着目せず網羅的に、多額の利益を恒常的にあげている」という点について、購入にソフトウェアもインターネットも利用せず、的中に着目して売買していたが費用として認められた点が画期的です。

ギャンブルを業としてやられている方も世の中には結構いらっしゃるでしょう。

ところでバカラの帝王と呼ばれる元大王製紙会長の井川氏は?

お金のない、一般の方には大型の追徴をして裁判に持ち込ませましたが、同様の理屈にもとづけば100億損した井川氏のケースも追徴をするべきでしょう。結局は100億円負けてますが、徹夜で何回も勝負を続けていましたので、勝ち金は1000億を超えるのでは。。。そこに課税するとえらいことになります。

ギャンブルをされる方は税に気をつけましょう。

ギャンブルに対する課税の実際

競馬をやられたことがある方はわかりますが、私が10年以上前に購入した際には馬券場で身分証を使うことはありませんでした。ほとんどの方が申告していないのではないでしょうか。裁判まで行ったケースは、正直に申告した良識ある方かと思いますが、つらい思いをされたようです。

今後はインターネット等で購入できるようになっているため、お金の動きが簡単に国税で追跡できるようになります。この裁判を契機に明確な基準の整備が望まれると感じます。